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大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)1390号 判決

控訴人 株式会社 柴山鉄工所

右代表者代表取締役 柴山清蔵

右訴訟代理人弁護士 馬淵健三

段林作太郎

被控訴人 紀太促彦

右訴訟代理人弁護士 福岡福一

右訴訟復代理人弁護士 服部明義

主文

原判決を取消す。

被控訴人より訴外東亜冷凍機械株式会社の承継人控訴人に対する大阪地方裁判所昭和二九年(ワ)第四、八六一号所有権移転登記抹消等請求事件の執行力ある判決正本にもとづく強制執行はこれを許さない。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

右強制執行はこれを停止する。

前項に限り仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

控訴人主張事実は控訴人が原判決添付第一物件目録記載の建物(以下本件建物という)及び同じく第二物件目録記載の土地(以下本件土地という)をその主張のごとく訴外東亜冷凍機械株式会社から賃借しその後右所有権を取得したこと、および本件債務名義たる大阪地方裁判所昭和二九年(ワ)第四、八六一号事件の判決(甲第一号証)が同庁昭和二六年(行)第二五号事件判決(甲第五号証)に牴触するとの点を除き当事者間に争いがない。

よつて先ず控訴人の本件債務名義が右第二五号事件判決に牴触するとの主張につき考えるのに、成立に争いない甲第五号証によると同判決は本件建物及び土地に対する控訴人主張の公売処分が適法であることを確定したものに過ぎないことが明らかであり、また成立に争いない甲第一号証によると本件債務名義たる右四、八六一号事件判決は被控訴人が右公売処分以前に同人を権利者として仮登記した代物弁済予約の効力にもとづき本件建物及び土地に対し所有権を取得し、したがつて控訴会社に対しては右公売処分による所有権移転登記の抹消登記手続請求権及び本件建物に対する明渡請求権、仮登記義務者であつた訴外東亜冷凍機械株式会社に対しては本件建物及び土地に対する本登記手続請求権および右土地に対する引渡請求権を有する旨を認定(訴外会社に対する同判決が確定したことは争いがない)したものであることが明らかである。ところで同判決が被控訴人の控訴人に対する本件建物明渡請求権を肯定したことの当否はさておき、仮登記による順位保全の効力は特段の事情がない限りその後になされた国税滞納処分による差押により左右されるものではなく、同判決が当時適用された旧国税徴収法のもとにおいて右特段の事情を認定しなかつたのは前記甲第一号証により明らかであるから、右両判決にはなんら牴触するところがなく控訴人の右主張は理由がない。

次に控訴人の前記(二)の主張につき考えるのに右主張はこれを本件債務名義の文言に比照して考えると結局「被控訴人は、控訴人を被控訴人に対し本件土地の引渡義務を負担する訴外東亜冷凍機械株式会社の承継人として、昭和三四年五月一九日右承継執行文の付与を受けたが、控訴人は昭和二四年六月右訴外会社から同土地を賃借しまた昭和二五年一一月二四日にはこれを競落取得したものであり、すなわち控訴人は本件土地を昭和二四年六月以降正当な権原にもとづいて占有しているのであるから右承継執行文の付与は失当でありこれを本件請求異議の理由とする。」というに帰する(控訴人はすでに本件土地の所有権移転登記を受けているのであるから本件承継執行文は登記義務については関係がないものと解する)。

かくのごとく民事訴訟法第五四五条の請求異議訴訟において同法第五四六条にいわゆる執行文付与に対する異議事由をも主張しうるかについては大審院判例及び実務の一般はこれを積極に解しており、当裁判所もかかる取扱いは当事者の救済方法をよりひろく認めるものであつてかような場合においては実際手続面における法的安定への要請が特に重視せられる要があることを考え(なお承継人が固有の地位にもとづいて承継執行文付与に対する異議を申立てうる場合があり、この意味において、右異議の訴と請求異議の訴との間には従来一般に説かれている以外にも理論上截然と区別しがたい点があるといわなければならない)、右見解に従うものである。

ところで≪証拠省略≫によると控訴人は本件債務名義たる判決のなされた前記第四、八六一号事件が第二審において結審する以前の昭和二四年九月頃から本件土地をひき続き独立占有してきたものであることが明らかであつてこれに反する証拠はない。とすれば控訴人は本件引渡義務につき民事訴訟法第二〇一条にいわゆる口頭弁論終結後の承継人ではないものというべく、したがつて控訴人を訴外東亜冷凍機械株式会社の承継人として本件債務名義にもとづき強制執行することは許されず控訴人の本件承継執行文付与に対する異議原因はその理由あるものというべきである。

なお被控訴人は本件異議原因は弁論終結後に生じたものでなく且つ同時提出主義に違反するから適法な異議原因といえない旨主張するのであるが、承継執行文付与に対する異議事由は本件のごとく請求異議訴訟において主張せられる場合においても弁論終結後の事由に限られないことはその性質上おのずから明らかであり、また同時提出主義のいわゆる同時とは同一事件を意味し同一審級を意味するものでないと解すべきであるから右被控訴人の主張は採用しえない。

以上の次第で控訴人が本来の請求異議事由として主張するところは理由がないが承継執行文付与に対する異議事由は理由があり、よつて結局本訴請求は正当としてこれを認容すべきであるからこれを棄却した原判決を取消すべきものとし民事訴訟法第三八六条第九六条第八九条第五四八条にしたがい主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加納実 裁判官 沢井種夫 加藤孝之)

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